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金子哲雄 2012『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』小学館。


「流通」から見つめた死  

 本書はテレビでもおなじみだった流通ジャーナリスト金子哲雄さんが肺カルチノイドという難病で、宣告されてから死に至るまでの500日をつづったものである。
 
 金子さんは、明石家さんまさん司会の『ほんまでっかTV』などでも、ちょっと笑える明るいキャラクターとして売っていたように思うが、実はその裏では、綿密な調査と真剣さをもって取材に取り組んでいたことが明かされている。
 
 本書の特徴はこうだ。金子さんががんを宣告されてから、「もともと私は、明るいキャラクターで通っている。『俺、がんだから』なんて告白は、周囲の皆さんに気をつかわせてしまうだけではないか」、「がんであることを公表してしまうと、関係者には多大なご迷惑をかけることになる」(p.14)との考えから事務所・家族など一部の人だけに告白して、一般的には告白しないでおこうとしたものだ。その大変さと深く死について考えてきた金子さんの思いがつづられている。

 自身の生い立ちから、家族のこと、奥さんのこと、流通ジャーナリストを目指した訳、そして仕事のことなど、普段のキャラクターからは考えられないほど真摯な金子さんを見出すだろう。

 実際に自分が「死」を宣告されたとき、現実的な生々しいものとして受け入れることができるのだろうか。死を覚悟したうえで生きることは難しいに違いない。しかし、実際に死を受け入れ最期まで前を向いて生きぬいたのは、金子さんの生き方ではなかったか。職業柄、死に至る病を隠してはいたが、最期に本書を「エンディングダイアリー」として書いたのは、自分の死を見つめ、対峙し、社会とのつながりを最後まであきらめないその姿勢からだった。
自分の死をも「流通ジャーナリスト」として発信したのだ。

 「私を死の恐怖から救い出してくれたのは、仕事だった」(p.143)。

 在宅での終末期医療、葬儀での食事のことなども金子さん自らが納得したものをと思い準備をしたりしていた。自分の死への準備から、地域医療の問題点を考えたりもしていた。延命治療はしないというのが金子さんの思いだった。「肺カルチノイド」という聞きなれない病名をあえて皆に知ってもらいたいため、死因にしてほしいという要望も生きているときにしていた。葬儀、や戒名に至るまで死ぬ前に手を打ち、プロデュースしていた。

 最期の最期まで自分の「死」までも「流通ジャーナリスト」としての視点で見つめていた。それは、「息が絶える瞬間まで仕事をすることで、社会とのかかわりを持ち続けたい」(p.156)との思いからだった。
 
 遅ればせながら、金子哲雄さんのご冥福をお祈りいたします。








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姜尚中 著  『心』



「死」とは何かという真摯な問いから生まれたもの 

 「心」、きわめてシンプルなタイトルであるが、このタイトルに込めた思いは深い。「先生」である姜尚中とのメールのやり取りをする大学生との書簡体で成り立っている小説だ。

 親友との恋愛における三角関係、「死」と「生きる」ということ。夏目漱石の『こころ』を意識し、それを土台にして、独自の世界観を生み出している。漱石の『こころ』は大変に重たいテーマを扱っているが、この『心』もまた極めて重たいテーマなのだ。

 「死」とは何なのか、という主人公の大学生の真摯な問いに答えていき、その上で「自分」とは何なのか、「生きる」とは何か、「人間」とは何か、「人生」とは、その「意味」は一体何なのか、といったようなことだ。

 そうした主人公の切実で真摯な問いに対して、先生である姜尚中も真摯に対峙して応答をしていく。
 「死」があることで、初めて「生」に意味を見出していく。

 3.11東日本大震災を通して、海の中の死者を捜索するという過酷なボランティア活動を通して主人公の大学生は成長していく。その成長とともに、先生の姜尚中も自分自身を見つめ直す。ちょっと抽象的だが、引用してみる。
 
 「君の取り組みを見て、わたしは改めて死は生の中にくるまれて存在していることを実感しました。死と隣り合わせ、死と表裏一体でつながっているからこそ、生は輝き、意味のあるものになる。そのことを改めて感じました。/死の中に生が含まれている。/生の中に死が組み込まれている。/それは矛盾ではありません。それが人間というものの尊厳を形成しているのです」(p.167)
 
 そうしたボランティア活動の経験から実感を伴った、「死」への向き合い方を、主人公自らが得ていく。その「死」(海で亡くなった人たち、具体的には死体たち)へと向かう過程は実に生々しい。彼はそのボランティアの過酷な状況下のため、精神に異常をきたしてしまう。心的外傷後ストレス障害、PTSDだ。

 しかし、主人公はそうした障害を抱えながらも、少しずつ前へ進んでいく。

 先生は主人公を励ましているようで、逆に励まされていたのではないか、と思い始める。
先生の亡くなった息子を、主人公の中に見ていたのだ。この物語は、姜尚中が息子を弔うために書かれた一書であるともいえなくもない。息子の死に対峙し、どう整理したらよいだろうかと考えたために書かれたともいえるだろう。









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プロフィール

mamu895

Author:mamu895
トーシツの持病(障害)を持っていることもあり、非正規で働くアラフォー男です。なかなか本は読めないし、書評も思うように進みませんが、本は好きなので読んで良かったと思う本・感動した本を紹介していけたらなと思います。今後読みたい本なども書いていけたらと思います。最近になり改めて公共図書館の魅力を感じています。

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