「他者貢献」という導きの星 日本ではあまりなじみのないアドラーの心理学を、青年と哲人とのダイアログ(対話)形式で説く本である。
トラウマのような原因論を否定し、目的論的なものの考え方を強く押し出している。以下、アドラー心理学のエッセンスを引用して紹介したいと思う。
「アドラーの目的論は『これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない』といっているのです。自分の人生を決めるのは、「いま、ここ」に生きるあなたなのだ、と」(pp.56-57)。
「あなたが変われば、周囲も変わります。変わらざるをえなくなります。アドラー心理学とは、他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学です」(p.115)。
「われわれはもっと『いま、ここ』だけを真剣に生きるべきなのです。過去が見えるような気がしたり、未来が予測できるような気がしてしまうのは、あなたが『いま、ここ』を真剣に生きておらず、うすらぼんやりとした光のなかに生きている証です」(p.271)。
「人生一般に意味などない。しかし、あなたはその人生に意味を与えることができる。あなたの人生に意味を与えられるのは、他ならぬあなただけなのだ、と」(p.279)。
「旅人が北極星を頼りに旅するように、われわれの人生にも『導きの星』が必要になる。それがアドラー心理学の考え方です。この指針さえ見失わなければいいのだ、こちらの方向に向かって進んでいけば幸福があるのだ、という巨大な理想になります。(略)他者貢献です。(略)あなたがどんな刹那を送っていようと、たとえあなたを嫌う人がいようと、『他者に貢献するのだ』という導きの星さえ見失わなければ、迷うことはないし、なにをしてもいい。嫌われる人には嫌われ、自由に生きてかまわない」(pp.279-280)。
「『わたし』が変われば『世界』が変わってしまう。世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、ただ『わたし』によってしか変わりえない」(p.281)。
私が深く感銘を受けたのは、幸福へ向かう導きの星が「他者貢献」という方向を向いているところだ。ここにアドラー心理学の核心があるのだと言っても言い過ぎではないのではないか、と思う。