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業田良家著 『ロボット小雪 新・自虐の詩』

「世界中の向こう岸を解放したい」

物語は近未来の日本と思われ、人々はロボットとの恋愛に夢中になっている。生身の人間より何でも言うことの聞く、言わば理想形のロボットと疑似恋愛をする。主人公・拓郎の恋人であるのが、もう一人の主人公、ロボット・小雪だ。

 この小雪というロボットが「心」を持ってしまうことから、この物語は大きな山場を迎える。

 そんなロボットと暮らすほど裕福な社会がある一方、「向こう岸」と呼ばれる言わば「スラム街」が登場する。そこは、ロボットの維持費より使い捨ての人間の労働力の方がよっぽど安上がりな世界だ。経済的に一度踏み外すと、「向こう岸」で暮らすしかなく、「こちら側」には戻れない。

 その「向こう岸」には、「分子力発電所」という施設がある。株の大暴落でお父さんの会社が潰れ、「向こう岸」に家族で行かざるを得なくなった拓郎の親友・広瀬が、その劣悪な労働条件下で働くことになる場所だ。母はゴミ山で缶を拾い、父は仕事にありつくことができず、「赤血球」を売ったり腎臓を30万円で売ってしまったりする。

 広瀬は、分子力発電所での日雇いの労働者から、次のような言葉を聞く。
「富を作り出すには3種類の方法があるべや/ひとつは地球から搾り取る方法/石油・資源・水・作物すンべて地球から取り出したものだべ?/あとは人間/俺たち下っ端の人間から時間と労力を搾り取るべさ/最後に未来の子供たちから搾り取る/国の借金、自治体の借金/手にするのは現在のお金持ち、支払いは未来の子供たち…」(p.133)。

 「向こう岸」とは、人間をモノとして扱い、「下っ端の人間から時間と労力を搾り取る」システムのことだ。「向こう岸」は生きるために犯罪が絶えず、生きるためにはどんなことでもしないといけない街だ。人間が「生きるか死ぬか」の二者択一のギリギリで生きていく場である。その社会では事件があろうとも決してニュースになったりすることのない社会だ。正しい情報が報道されない、むしろ隠蔽される社会だ。

 拓郎たちのいる社会は「向こう岸」があるにも関わらず、「向こう岸」を見ようとしない。「何か大変なところ」、「こわいところ」、「負け組」の行くところ、という認識くらいしか人々は持ち合わせていない。自分たちとは無関係な場所であると。

 ロボットの小雪はこう言う。「私はこんなひどい世界を変えるつもりです/ロボットの私がこんなことを考えるのはいけないことでしょうか/でも人間にはこの社会を変えることはできないと感じています/だから私がやるしかありません」(p.166)と。

 小雪はなぜ、どうして「でも人間にはこの社会を変えることはできないと感じて」いるのか。今の私たちが考えなくてはいけない問いではないのか。

 そんな「向こう岸」に疑問を持ち、なぜ貧富の格差があるのか、どうしたら解決するのかと真摯に考え行動するのが、心を持ってしまったロボット・小雪なのだ。「世界中の向こう岸」を解放したいと考え、実際に小雪は行動に出る。今ここにある「向こう岸」の人々を解放することから。

 「情報は世界を変えます/それが真実の情報ならなおさら」(p.151)とロボット・小雪は語る。


 本書は、業田良家の漫画、2008年の作品。

(2011.7 BK1へ)







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mamu895

Author:mamu895
トーシツの持病(障害)を持っていることもあり、非正規で働くアラフォー男です。なかなか本は読めないし、書評も思うように進みませんが、本は好きなので読んで良かったと思う本・感動した本を紹介していけたらなと思います。今後読みたい本なども書いていけたらと思います。最近になり改めて公共図書館の魅力を感じています。

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