スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

向谷地 生良『べてるな人びと 第1集』

 障害と付き合うすべを「研究」し、自分との付き合い方を「発見」する

本書は、北海道の浦河で暮らしている精神に障害を持つ人々の拠点となる「べてるの家」を中心にした(統合失調症患者を主とした)人々の「当事者研究」のことを平易な言葉でわかりやすく、かつ大胆に論じているものである。少々大胆すぎて現在の精神科医療の主流ではないが、それを訴えている点が本書のすぐれた点であり、かつ注目すべきところである。
 
 「べてるな人びと」は、自ら「病名」をつけ、「当事者研究」を「楽しむ」。たとえば、「思考伝播」を「統合失調症サトラレ型」と名付ける人、「STBB症候群(S=シャイで、T=ツッパリ、B=ビクビクして、B=爆発=問題を起こす)」や「精神バラバラ状態」であるとか「統合失調症週末金欠苦労タイプ」など、さまざまである。それぞれに個性があり、統合失調症の症状の現れ方も十人十色といったところである。そして、それをおしすすめること=当事者研究によって自分を知り、どう対処したらいいかを知る。

 当事者研究に取り組んだ統合失調症の女性は、強迫的な幻聴が現れるときは、空腹のときが多いことがわかり、幻聴が騒がしくなったときに、好物のヨーグルトやキムチ・チャーハンを食べると静まることを「発見」(!)した。「これまで、真剣に昼夜にわたって薬や注射で対応してくれた先生や看護婦さんに、実は“お腹が減っていたんです”とは口が裂けても言えないね」と申し訳なさそうに笑った(p.147)。

 月に一度や、週に一度会う医者やカウンセラーでは、とうてい発見することや診断することの困難なことを、自らの病気と向き合い、「研究」することで「発見」したのだ。十数年来苦しめられてきた強迫的幻聴を静めるすべを自ら知るということは当事者にとって、大きな前進だと思うし、興味深い「発見」である。こうしたケースがあるということは、今後の精神科医療にとって実に大きな一歩であると感じる。

 著者は、そんな当事者研究を紹介してほしいという講演依頼が多数よせられるようになり、講演のときに必ず聞かれるのは「当事者研究は浦河だから出来ることなんじゃないですか」という類の質問だという。「『当事者研究』という取り組みの一番大切なところは、定式化された方法ではなく、現実に対する向き合い方、生き方の表現」(p.25)、つまり何か困難な症状が現れたときに患者「当事者」が「研究しよう」という暮らし方、生き方、姿勢を常に持っていることだ。

 このような当事者研究にいたるには、「長年統合失調症をかかえた人たちとの相談援助をとおしてのかかわりの経験から見えてくる統合失調症の素顔は、単なる“脳の機能不全”という側面を超えて、実に人間臭さをまとった病だと感じることが多い」(p.25)との著者の認識からである。また、「薬だけでは解決できない。精神病の根源は個人ではなく、個人と個人の関係性、私が呼ぶ“あいだ”にあるのではないかと思う」という木村敏の言葉を引用しながら、脳科学の進歩により精神障害を「脳」という一つの臓器の病として認識され、「治療の手段が『薬物療法』に収斂していき、わが国の精神医療は、薬物を多種類投与する多剤多量に陥る中で、次第に人間の顔を失い、人と人とのつながりの回復という基本を見失ってきた」(p.25)との認識を示している。

 この本は、統合失調症当事者、他の精神疾患を持つ当事者、またその家族、専門家である医療従事者たちにとっても、有益な部分が多くあり、今後のわが国の精神科医療を見直す大きなきっかけとなればよいと思う。また、タイトルが「第1集」ということで、続編を期待したい。

(2008年オンライン書店BK1に投稿)







にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 統合失調症へ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

mamu895

Author:mamu895
トーシツの持病(障害)を持っていることもあり、非正規で働くアラフォー男です。なかなか本は読めないし、書評も思うように進みませんが、本は好きなので読んで良かったと思う本・感動した本を紹介していけたらなと思います。今後読みたい本なども書いていけたらと思います。最近になり改めて公共図書館の魅力を感じています。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。